対談

霧島の一杯が、食後の時間を整える

——今村茶園 × うなぎ割烹 恵比寿亭


今村広嗣(今村茶園)×宮島真亜久(四代目 うなぎ割烹 恵比寿亭)



モデレーター(Shimazu)

今回、四代目 うなぎ割烹 恵比寿亭さんにて、今村茶園の霧島茶の提供が新たに始まりました。

本日は、今村茶園のプロデューサーを務めております島津が、モデレーターとしてお届けいたします。

 

 

Shimazu

それでは、早速
恵比寿亭は、四代にわたり暖簾を守りながら、国産うなぎを中心に、その時々で最良の素材を見極め、家族で囲む食卓の時間を大切にしてきた店です。

一方、今村茶園は、霧島の自然と向き合いながら、派手さよりも奥行きや余韻を重視したお茶づくりを続けてきました。

 

今回の取り組みは、単に新しいお茶を導入する、という話ではありません。料理の最後に添えられる一杯として、そのお茶がどんな役割を果たすのか。食事を終え、店を出て、家に帰るまでの時間に、どんな感覚が残るのか。

「料理を引き立てるとは何か」「食後の時間まで含めて、食を考えるとはどういうことか」その問いに向き合う中で、霧島茶と恵比寿亭が、自然と交わることになりました。

 

今日は、なぜ霧島茶だったのか。恵比寿亭という場所で、その一杯がどのような意味を持つのか。そして、お二人が日々の仕事の中で何を大切にし、次の世代へ何を手渡そうとしているのか。その背景にある考え方を、ゆっくりと言葉にしていただきたいと思います。

それではよろしくお願いします!!


霧島茶が、恵比寿亭の卓に並ぶまで


宮島

今回、恵比寿亭で今村茶園さんの霧島茶をお出しすることになりましたが、最初にお話をいただいたとき、正直とても自然な流れだと感じました。


今村

そう言っていただけるのは嬉しいですね。私たちとしても、「名店で使っていただく」という意識より、料理の余韻をどう締めるか、そこを一番に考えていました。


宮島

うなぎは脂も旨味も強い料理です。だから最後に出るお茶が、軽すぎても、前に出すぎても成立しない。今村茶園さんのお茶には、その距離感がありました。


今村

霧島という土地の影響も大きいと思います。火山灰土壌、寒暖差、霧。

香りや味が尖るというより、奥行きのある層が重なるような味が出やすい環境なんだと思います。






飲み終えたあとに、気づくこと



宮島

飲み終えたあと、自然と気持ちが整っていることに気づくお茶でした。


今村

それは、私たちがお茶に一番求めている役割かもしれません。料理の味や香りを邪魔せず、その時間をきれいに閉じてあげる。お茶は、前に出るものではなく、最後にそっと寄り添う存在だと考えています。


宮島

食事って、その場だけじゃなくて、店を出てから家に帰るまでの時間も含めて、ひとつの体験だと思っているんですよね。


今村

はい。私たちは「飲んだ瞬間のおいしさ」ももちろん大切ですが、飲み終えた後の余韻を大切にしています。お客様がお店を出て、家路までの演出ですね。


Shimazu

“霧島の余韻をいつまでも”ですな(笑)







お茶づくりは、時間を待つ仕事

——世界的な抹茶ブームのなかで



宮島

今は、世界的に抹茶ブームですよね。

 

今村

そうですね。抹茶は海外でもわかりやすく、評価されやすい存在です。ただ、私たちが向き合っている煎茶は、もう少し静かで、奥行きのある世界だと思っています。


今村

茶の木を植えてから、安定して収穫できるようになるまで、最低でも5年はかかります。


宮島

5年……。


今村

最初の数年は、味をつくるというより、「この土地に根づくかどうか」を待つ時間です。そこから毎年、天候や芽の出方を見ながら、少しずつ畑の表情を読み取っていきます。


宮島

料理の世界では、なかなか想像できない時間軸ですね。

 

今村

でも、その積み重ねがないと、あの“気持ちが整う感じ”は生まれないと思っています。






父の背中と、料理人としての原点


今村

宮島さんは、小さい頃から、お父様が料理をする姿を見て育たれたそうですね。


宮島

はい。とにかく、かっこいい父でした。休みの日は、バイクの後ろで風を受けながら、古着屋や海へ連れていってもらった記憶が残っています。


宮島

仕事には本当に厳しくて、いわゆる「バリバリの人」でした。料理に対しても、生き方に対しても、妥協しないタイプだったと思います。


今村

なるほど……。だから宮島さんも、毎日あれだけ全力なんですね(笑)。



Shimazu
元気が良すぎるんだよな….(笑)


宮島

いや、もう刷り込まれてますね(笑)。


宮島

家でも店でも音楽が流れていることは多くて、父はソウルミュージックが好きでした。そういう空気の中で、料理に向き合う姿勢や覚悟を、自然と学ばせてもらった気がします。


Shimazu

今村茶園の映像はソウルミュージックメインで構成されていますから、初めは今村茶園の映像を見てDMいただきましたもんね?


宮島

はい、なんだこの映像はと。ソッコーでDMしましたもんね(笑)






修行を経て、四代目へ



今村

料理の道へは、自然な流れだったのでしょうか。


宮島

初めは受け継ぐつもりはあ全くありませんでした。でも、ある日を境に私の人生が大きく変わったんですね。ですので、学校を卒業してから料理の世界に入り、ミシュラン掲載店などに飛び込みで修行を重ねました。


Shimazu
やはり、つねに全力ですね(笑)


宮島

技術だけでなく、素材や一皿への向き合い方を、徹底的に叩き込まれた時間だったと思います。


宮島

そして2020年に、四代目として恵比寿亭を継ぎ、今に至ります。






家族で食事をするということ


今村

恵比寿亭さんは、ご家族で食事に来られるお客様がとても多い印象があります。


宮島

それは、意識している部分でもありますね。


宮島

私は中学生のときに、三代目だった父を亡くしています。


今村

そうだったのですね….。


宮島

だからこそ、家族で一緒に食卓を囲む時間が、どれだけ大切なものかを、早い段階で実感しました。


今村

なるほど……。


宮島

食事って、味だけじゃなくて、同じ時間を共有することだと思うんです。


宮島

同じものを食べて、同じ空間で、同じ時間を過ごす。その記憶が、あとから思い出になる。

 

今村

その考え方は、私たちのお茶づくりとも重なります。

 

今村

お茶も、その場で完結するものではなくて、家に帰るまで、あるいは翌日まで、気持ちの中に残っていくものだと思っています。


宮島

だから、「家族で来てよかったな」と思ってもらえる時間を、一つひとつ積み重ねたいですね。






恵比寿亭のこだわり

——素材・現場・そして未来



今村

恵比寿亭さんは、素材選びにも強いこだわりを感じます。


宮島

うなぎは、九州産のうなぎをはじめ、未来鰻や坂東太郎など、その時々で納得できるものを選んでいます。


今村

近年は、うなぎを取り巻く環境も変わってきました。


宮島

そうですね。ワシントン条約の問題もあり、うなぎという食材そのものに、きちんと向き合う必要がある時代だと思っています。

 

宮島

だからこそ、背景や考え方が見えるものを選ぶ。可能な限り、現地まで足を運ぶようにもしています。


宮島

お酒や他の食材も同じで、料理を引き立てるものを選ぶ。主張しすぎるものは、あえて置かないこともあります。






共通する美学

—— 余韻を残すということ



今村

お話を伺っていて感じるのは、料理もお茶も、時間を裏切らないものづくりだということです。


宮島

うなぎも、食材も、結局は時間をどう使ってきたか、ですね。


今村

私たちも、早く結果を出すことより、時間をかけて育ったものの力を信じています。



次の世代へ


宮島

父から受け取ったものを、自分なりに次へ渡していく。それが、四代目としての役割だと思っています。

 


今村

私たちも同じです。霧島のお茶が、上尾の食卓や、家族の時間に溶け込んでいく。それが、私たちの一番の理想です。


宮島

うなぎとお茶。形は違っても、同じ方向を向いている気がします。


今村

はい。飲み終えたあと、食べ終えたあとに、「なんだかよかったな」と思ってもらえること。それが、何より大切ですね。


最後に

 

Shimazu

今日のお話を通して、

あらためて感じたのは、

今村茶園が大切にしている

「霧島の余韻をいつまでも」という考え方と、

恵比寿亭が守り続けてきた

「上尾の笑顔を、またここで」という想いが、

とても自然に重なっているということでした。

 

 

料理を食べ終え、

お茶を飲み終えたあとに、

気持ちが少し整っていること。

 

その余韻が、

家に帰るまで、

そしてまたこの場所に戻ってきたくなる気持ちへと

つながっていく。


霧島の余韻を、上尾の笑顔に乗せて。

そんな一杯が、

これからも恵比寿亭の卓に

静かに寄り添っていくのだと思います。

 

本日は、ありがとうございました。

Yoshihiro Shimazu

 

■うなぎ割烹恵比寿亭について

埼玉県上尾市にて、創業100年を超える歴史を誇る「恵比寿亭」は、古き良き日本の料亭文化を今に伝える老舗うなぎ割烹です。先代より受け継がれた職人の技により、国産うなぎを丁寧に捌き、秘伝のたれで香ばしく焼き上げる伝統の味わいを守り続けています。現在は四代目当主のもと、格式を大切にしながらも時代に寄り添う工夫を重ね、祝いの席や特別な会食、地域の集いの場としても長く親しまれてきました。「上尾の笑顔を、またここで。」という言葉をブランドコンセプトに、これからも味とおもてなしの心を未来へと受け継いでまいります。

 


 

【店舗概要】

住所:〒362-0037埼玉県上尾市上町一丁目5-19

TEL:048-771-0138

営業時間:

• ランチ 11:00 – 14:30 (L.O. 14:00)

• ディナー 16:30 – 21:00 (L.O. 20:30)

公式ウェブサイト :https://www.evistei.com

Instagram:https://www.instagram.com/evisageo/